【MPSニュース】このところ問題化している害虫とIPM
各都道府県から発表されている病害虫発生予察・特殊報の情報をもとに、近年、日本国内で発生が増え問題が広がりつつある害虫をいくつか紹介します。すでにご存知の害虫もあるかもしれませんが、IPM(総合的病害虫管理)的な対策についても解説します。
チュウゴクアミガサハゴロモ
中国・東南アジア原産の昆虫で、2015年に大阪府で初確認された後、急速に拡がり、現在では関東以西のほとんどの都府県で確認されています。日本には在来のアミガサハゴロモもいますが、これまで害虫化した例はなく、作物に被害が出ている場合はチュウゴクアミガサハゴロモと考えてよさそうです。
多くの樹木類に寄生し、果樹や茶での被害が懸念されています。花木や切り枝類では、つばき、さるすべり、ろうばい、さかき、いぬつげ、などの報告がありますが、これ以外にもまだまだありそうです。成虫は若い枝に群がって吸汁し、すす病の発生原因となります。さらに、細い枝に産卵管を深く差し込んで卵を埋め込むため、産卵された枝が損傷によって枯れてしまう被害をもたらします。産卵箇所は綿毛状の物質で覆われます。
枝に産みつけられた卵で越冬し、春に幼虫が発生します。成虫が作物に飛来して吸汁・産卵することで被害が発生し、次の発生源となります。大阪府では成虫は年2回、6~7月と9~12月に発生するとされています。一方、埼玉県では7月から成虫の飛来が始まり、9月と10月に飛来のピークとなり、11月には終息したとの報告があります。お隣の韓国では年1回の発生で、7月中旬頃から成虫が現れ、8月上旬から産卵が開始されるそうです。このように各地での発生時期と年間の世代数についてはいまだ不明な部分が多いため、夏から秋にかけて作物をよく観察し、成虫の寄生や産卵痕の有無を確認してください。
耕種的防除対策として、綿毛状の産卵痕がついた枝は見つけ次第取り除き、埋設や焼却処分します。成虫の飛来防止には防虫ネットの他に、黄色粘着トラップが有効との情報もあります。とにかく圃場内に成虫が定着して吸汁・産卵されることを減らすよう努めてください。
農薬による防除に関しては情報不足ですが、おそらく薬剤抵抗性はそれほどなく、有機リン系や合成ピレスロイド系の殺虫剤で防除可能ではないかと想像します。ただし成虫に薬液はかかりにくいため、幼虫の発生時期を狙ってタイミング良く行う必要があります。一方、これらの化学農薬は天敵類も減らすため、むやみに薬剤防除を行うとかえって害虫の発生を増やしてしまうことになりかねません。正しい防除時期や防除薬剤が判明するまでは薬剤防除に頼らず、耕種的防除による対策を徹底してください。

クロテンコナカイガラムシ
もともとアメリカ大陸原産の害虫で、以前から沖縄県での発生は知られていましたが、2013年に佐賀県、2014年には福岡県、2015年には愛知県と発生報告が続き、これまでに神奈川県以西の22府県で発生が確認されています。
成虫は3~5mmで体は白色のロウ質物に覆われており、薄くなった部分が2対の黒い点に見えます。海外ではワタやトマト等60科以上の広範囲の植物に寄生することが報告されています。国内でもトマト、ミニトマト、ナス、キュウリ、オクラ、ホウレンソウ等様々な作物および、圃場内のスベリヒユやキク科雑草への寄生が確認されています。
他のカイガラムシ同様、排泄物がすす病の発生原因となり植物が汚れる被害があります。未確認ではありますが、キンギョソウの生育期に新芽が湾曲するなどの異常な症状が発生し、クロテンコナカイガラムシの寄生による影響が疑われています。
耕種的防除対策は圃場への侵入を防ぐこと、増殖場所を放置しないこと、天敵類の活動を阻害しないことです。カイガラムシ類は歩行によって移動しますが、寄生した苗や、作業者の衣服に付着して圃場に持ち込まれることが多いと考えられます。発生圃場に立ち入った後は未発生圃場に入らないように気をつけること、苗の寄生に注意することを徹底してください。寄生が確認され作物や枝は取り除き、圃場外で適切に処分してください。クロテンコナカイガラムシは寄生する植物の範囲が広く、キク科雑草やスベリヒユでの寄生と増殖も確認されています。栽培終了後は圃場内の除草を行い、増殖源を残さないようにします。カイガラムシ類の天敵には寄生蜂(トビコバチ、クロバチなど)、タマバエ類、テントウムシ類等が知られていますが、農薬の影響を受けやすいため薬剤防除が行われている圃場ではあまり活動できません。天敵は害虫が増えた後、しばらくしてから増加します。樹木など永年作物では、深刻な被害にならない程度の害虫発生は許容して薬剤防除を控えたほうが、長期的には天敵類が増えて害虫の発生抑制につながる可能性もあります。
カイガラムシ類に登録のある殺虫剤であれば効果はあると予想されますが、天敵類にも影響があるものが多いため、新芽や果実などの被害防止のために最適なタイミングでの使用に止め、密度低減のために定期的に農薬散布を続けることは好ましくありません。アメリカではワタの防除で天敵類に影響の少ないアプロードが使用されています。薬液の届きにくい隙間に潜り込むことや、体表がロウ物質で覆われ水をはじくことから、展着剤を加用して薬液が害虫に届くようにしてください。

モモヒメヨコバイ
中国、台湾、朝鮮半島に分布する害虫で、国内では沖縄県でのみ確認されていましたが、2019年に和歌山県で発生が確認されて以降、本州で次々と分布を拡大し、現時点で30 都府県から発生報告があります。
成虫は体長約3mmの黄緑色で、眼は黒色、頭頂部にも黒い点があります。幼虫と成虫が葉を吸汁し、葉全体が吸汁されると白く変色して見えます。これは吸汁の際、葉緑素も同時に吸汁されるためと考えられています。被害葉の裏には多数の脱皮殻が確認されます。
害虫が多発した時、枝に触れると大量の成虫が飛び立ち作業の迷惑になります。被害を受けた葉では葉緑素の減少により光合成能力が低下し、激しく被害を受けると早期落葉する場合があります。被害を受けた翌年の花芽数や生育への影響は認められていませんが、長期にわたって被害を受け続けると樹の生育に悪影響が及ぶ可能性が懸念されています。
和歌山県の梅では展葉が始まる3月中旬から成虫の飛来が始まり、3月下旬と8月中旬に飛来のピークがありました。幼虫は5月上旬から発生が始まり、7月以降に急増し、9月中旬まで認められました。幼虫の増加に伴い葉の被害程度が上昇しました。梅の落葉後は、圃場周辺の常緑樹(ヒサカキ、ツバキ、イヌマキ、カナメモチ、サンゴジュ、シキミなど)で成虫の越冬が認められました。
IPM的には経済的被害に対しての適切な防除、つまり実質的な被害がなければ発生を許容する判断が必要です。韓国では農薬散布園に比べ有機栽培園では害虫発生の終了時期が早かったとの報告もあり、化学農薬によって天敵が減少すると、かえって発生が慢性化する可能性があります。越冬場所の常緑樹が発生源として重要なため、それらの撤去や休眠期防除などの対策も考えられます。
モモヒメヨコバイに登録のある農薬はいくつかありますが、天敵類に影響の少ない殺虫剤(コルト、ウララ)を使用するようにしてください。幼虫が急増して葉の被害が増える前(7月頃)に防除を行い、その後は成虫の飛来を見ながら、害虫の密度が高まりすぎない程度に追加防除を行います。


