【MPSニュース】農薬使用者が守らなければいけないこと

MPSジャパン株式会社 彦田岳士

オランダ政府機関が懸念を表明

本年2月、オランダ食品消費者製品安全庁(NVWA)が気になる調査結果を発表しました。温室栽培における切花生産者の農薬使用に関する法令遵守率が、わずか39%であったとのことです。これはNVWAが2024年から2025年にかけて実施した「温室栽培における切花の農薬使用に関する重点検査」の結果で、全71件の検査のうち、法令に従って正しく農薬を使用していたのはわずか28社、残る43社(61%)で何らかの違反が確認されました。2019年に行われた同じ検査での法令遵守率は60%であり、NVWAは切花生産者のコンプライアンス違反による環境への影響や消費者の安全に対して懸念を表明しています。

ここで気をつけて頂きたいのは、この結果は切花生産者のモラルの低下というより、生産者が農薬規制の強化に対応しきれていないことを示している、と考えられることです。

具体的な違反内容を見てみると、単純なミスによる規制違反が多いことが分かります。43社の違反者のうち農薬の使用規則に違反していたのは34社で、違反が複数見つかった生産者もあることから、違反の合計件数は40件になりました。最も多かったのは農薬使用基準からの逸脱で32件あり、これは農薬の登録ラベルで定められた濃度や量、回数を超えて使用したり、使用が認められていない時期に使用したりしたものです。次に多かったのが登録されていない作物に使用してしまった7件であり、ほぼ全てのケースがEUで正式に登録された農薬を使用しているが、使い方が誤っていたという内容です。今回、2019年の検査から遵守率が大幅に下落したのは、この間に行われた農薬の登録ラベル変更に合わせて使い方を変えられなかったものと想像できます。

農薬は登録された後も、最新の安全性情報に基づいて登録内容の変更が行われます。EUでは近年、さまざまな潜在的リスクに対する対策として農薬の使用量に対する規制、訪花昆虫の活動時期を避けるなどの使用時期の規制、人や環境への悪影響が疑われる農薬の登録抹消など、年々規制が厳しくなっています。

農薬の使い方以外での違反として最も多かったのが、農薬の使用記録・報告に関する違反の13件です。オランダでは農家は使用した農薬の種類と量を政府に報告しなければなりませんが、その内容に不備があったということです。他には登録切れ農薬の在庫(7件)、農薬散布器具の定期検査期限切れ(5件)、農薬使用者に必要な専門能力証明書の不備(2件)という結果でした。

オランダにおける厳しい農薬規制に関しては生産者に同情できなくもありませんが、それらはEUや国が人々の健康と自然環境を守るために必要と判断して行なっているものです。実際、オランダ水管理当局による検査では切花栽培の温室周辺の地表水から高濃度の農薬が検出される事例が相次いでおり、水生生態系への悪影響だけでなく、最終的には飲料水源の安全を脅かすと警告されています。また、農薬の不適切な使用による悪影響を最も大きく受けるのは、その農場で働く人々です。食用ではない切花には残留農薬の基準値はありませんが、あまりに多くの農薬が残留した花を堆肥としてリサイクルした場合、堆肥化の過程で十分に分解されず、堆肥が汚染されてしまうリスクも指摘されています。

何より、このような実態が公表されることにより、花き業界のイメージ悪化は避けられません。FSI(花き持続可能性イニシアティブ)の活動など、オランダの切花は「美しさ」だけでなく「クリーンな生産プロセス」をブランド価値として確立しようと努めています。NVWAの担当官が「ルールを守ることはオプションではない。これは業界が生き残るための最低条件だ」と断じる通り、コンプライアンスの遵守はオランダの花き産業を守るための必須条件となっています。NVWAは今後、罰則の強化や違反歴のある生産者の重点監視を計画しており、違反者の公表まで検討を始めているなど、これまで以上に強硬な姿勢を打ち出しています。オランダの切花産業がこれからも「世界の模範」であり続けるため、花き生産者の意識改革が求められています。

この報告についてはオランダNVWAのウェブサイト(オランダ語)をご覧ください:
https://www.nvwa.nl/actueel/nieuws/2026/02/03/nvwa-zorgen-om-lage-naleving-toepassing-gewasbeschermingsmiddelen-in-snijbloemen

日本の花き生産者が守れなければいけないこと

オランダほど厳格ではありませんが、日本でも農薬使用者には農薬による被害を防止する責任が法律で定められています。これは食用作物でない花き類に農薬を使用する場合であっても免れることはできません。

【農薬使用者の責務】
  1. 農作物を枯らしてしまうなどの被害を起こさない責任
  2. 人や動物に対する健康被害を起こさない責任
  3. 農薬を使用した作物を餌として生産された畜産物を通じて、人の健康被害を起こさない責任
  4. 農薬を使用した農地で栽培した作物や、それを餌として生産された畜産物を通じて、人の健康被害を起こさない責任
  5. 周辺に生息する植物・昆虫・魚類・鳥類・動物などの環境動植物に重大な被害を起こさない責任
  6. 河川や湖沼および海岸付近での水質汚染を防止し、汚染された水や水産物を通じて人や動物の健康被害を起こさない責任

これらの責務を果たすための方法として、食用作物では「農薬の製品ラベルの記載事項を遵守する責任」、要するに農薬は製品ラベル通りに使用しなければいけないという定めがあり、違反者には罰則があります。花き類ではその定めがないため、花き生産者の中には配慮に欠けた農薬の使い方をする人が見受けられますが、上記の被害防止の責任はあります。つまり、製品ラベルの通りに農薬を使用していればそれ以上の責任は追求されませんが、花き生産者が製品ラベルから外れた農薬の使い方をするのであれば、自らの責任で被害防止を図らなければならないということです。農薬による被害防止には専門的な技術と情報が必要であり、ずさんな対策で被害や汚染を引き起こした場合、生産者が責任を取らなければなりません。農薬は決して好き勝手に使用してはいけないことを再認識してください。

花き生産者が農薬使用者の責務を果たすためには、適用作物に花き類や観葉植物がある農薬を、製品ラベルで定められた方法に従って使用することが大切です。農薬の安全性は製品ラベルに記載された「使用場所」「使用方法」「使用量」「使用回数」に基づいて確認され、保証されています。さらに「使用上の注意事項」には、農薬を使用する際の防護メガネやマスクの着用など、使用者がとるべき安全対策が記載されています。特に危険性が高い農薬では施設栽培での使用自体が禁止されている場合もあります。周囲の住民や環境生物への被害を防止するため、使用場所や使用時期の制限やドリフト(飛散)防止措置をとることなども定められています。農薬は使用方法だけでなく使用上の注意事項も確認し、それらに従って使用しなければなりません。他にも農薬の保管や廃棄に関する注意事項や、 農薬散布後に器具類を洗浄した廃液の適切な処理などは、花き生産者であっても当然守らなければいけないことです。

食用作物では食品トレーサビリティ上の必要性から農薬使用記録の保管が要求されていますが、これは農薬使用者の責務を果たしていることの証明になります。同じ責務は花き生産者にもありますので、使用した農薬の名称と使用した日、使用場所、使用量を記録し、保管することを強く推奨します。花き生産の環境認証MPS-ABCは、そのような農薬使用記録が適切に取られていることを証明するものでもあります。