【MPSニュース】切り花の長期低温貯蔵技術の検証・第1回分科会

フラワー需給マッチング協議会 物流効率化部会

これまで国内の花き生産および流通における諸問題に取り組んできたジャパンフラワー強化プロジェクトは、本年度からフラワー需給マッチング協議会(FMA)に合流し、引き続き花き物流の効率化を目指した実証事業を行なってゆきます。今回は本事業のテーマの一つである「切り花の長期低温保管技術」について、5月2日に開催された第1回検討会の内容をもとに、この技術の背景と本年の実施計画について紹介します。

近年の高温化による課題

気温上昇の影響で、近年では花き生産において出荷時期が予定より大幅にずれるケースが増加しています。これにより、出荷者にとって重要な物日に十分な出荷量を確保できないだけでなく、出荷量の減少により市場価格の高騰や品質の不安定化といった問題が発生しています。そのため、一部の品目(リンドウなど)では生花から造花への切り替えや、物日のアイテムから外されることも起こっています。 このまま地球温暖化がおさまらず、このような状況が常態化してしまうと、欲しい時期に欲しい花が手に入らないことを理由に、消費者に「花離れ」を加速させてしまうことも懸念されています。そこで、収穫後の切り花を低温で貯蔵して、需要に合わせて出荷や販売を調整できる可能性について検討を行うことになりました。

切り花の日持ちを決める「温度・時間値」とは?

切り花が置かれている場所の温度(℃)と、その温度に置いていた時間(h)を掛けたものを「温度・時間値」と呼びます。例えば、20℃の室内に100時間置いた時の温度・時間値は20×100=2000となり、5℃の冷蔵庫内に200時間置いた時の温度・時間値は5×200=1000になります。10℃の保冷庫で50時間保管し、その後25℃の室内に100時間置いた時の温度・時間値は、(10×50)+(25×100)=3000と計算されます。 切り花の品質は収穫後の温度・時間値に従って変化するため、この温度・時間値は切り花の日持ち日数の推定に用いることができます。過去の実証事業では収穫後の日持ち期間を示す温度・時間値として、トルコギキョウ:2400(湿式保管)、バラ:2400(湿式保管)・1200(乾式保管)、ヒマワリ:2400(湿式・乾式とも)、などの値が得られています。 収穫から店頭販売までの管理温度が高いと、この間に多くの温度・時間値が消化されてしまい、切り花の購入者にとって鑑賞できる日数が短くなってしまいます。逆に、産地での予冷に始まりコールドチェーンを徹底することで、消費者に日持ちの良い切り花を提供できます。 さらに、切り花に障害の起こらない範囲でぎりぎりの低温で管理することで、非常に長期にわたる貯蔵や輸送が可能になります。バラやカーネーションでは低温の冷蔵コンテナを使用して、輸出国から輸入国まで船舶による海上輸送が実際に行われています。

欧米で発達している「長期低温輸送・貯蔵技術」

切り花の長期低温貯蔵技術の先行事例として、アフリカの花き輸出国ケニアから消費地である欧州への海上輸送について紹介します。従来はケニアの農場での採花後、可能な限り短期間でオランダの花き市場に届けるために航空機による輸送が行われていました。 しかし、花の輸送によって大量の温室効果ガスが排出されることが大きな問題となり、環境に優しい輸送手段として超低温保管による海上輸送技術の開発が行われました。様々な試行錯誤の結果、現在では品質を維持したまま平均約35日間の海上輸送が可能となっています。ところが、海賊行為や紛争の影響により、最近では紅海の運行が厳しくなっています。そこで南アフリカを周回する、より長いルートでの輸送を可能にするために、60日間の低温輸送技術の開発が進められています。 日本における切り花の低温保管との主な違いとして、保管方法は湿式ではなく横箱・乾式で、保管温度は一般的な設定の5℃ではなく0.5〜2.0℃の超低温である点が挙げられます。

実施計画について

本事業の成果が現場で利活用できる技術となるよう、多角的な視点に基づいた実証を計画しています。 (1)基礎検証(実践例の分析):すでに産地での低温貯蔵を実施している事例を調査・分析します。 JAうごでは約8年前から切り花の低温貯蔵に取り組んでいます。目的は①繁忙期に向けて事前に出荷物の量を確保するためと、②市場に出荷物がだぶつく時に出荷日を調整するためです。実施されている低温貯蔵の概要は、貯蔵期間は最長2週間(1週間程度が多い)、貯蔵環境は1〜3℃の保冷庫(通常出荷品と共用)、対象品目はトルコギキョウ、小菊、SPマム、ストック、カンパニュラなどです。多くの試行錯誤によって低温貯蔵の成果と効果、経験・ノウハウはすでに積み上がり、品質を維持しながらの長期貯蔵が実現されています。これまでに長期貯蔵が原因のクレームはなく、むしろ出荷情報が早めに確定するため前売りの提案がしやすい、物流会社が事前に荷量を把握でき積載率アップに繋がる、相場が安い時期を避けて出荷でき単価向上に寄与するなど、生産者・物流・市場の誰もにメリットしかない取り組みであると捉えられています。 JAうごでは、咲きすぎは花痛みの原因となるため硬めでの切り前が基本となっています。本実証では切り前の基準表を参考に、どの切前が長期保存に適しているかを整理します。長期保存は前処理(抗菌剤、STS、糖質等)がしっかり行われていることが前提なので、本実証にてどの品目に何が使われているかを整理します。また、JA担当者の人事異動によるノウハウ蓄積の難しさや、何より生産者の理解と信頼が必須であることなど、他所で適用する際に想定される課題としても整理します。 (2)物日需要アイテムの長期貯蔵試験:市場での低温貯蔵による出荷調整の可能性について検証します。 切り前の硬さや箱詰め本数、産地での予冷の有無などは通常の出荷通りにして、市場についてから差圧予冷をかけて低温貯蔵を検証します。STS処理やボトリチス対策などについても検討します。 (3)地域展開(既存施設の活用):すでに産地にある低温貯蔵施設の利用可能性について検討します。 本年度はJA会津よつばが現在使用している雪室を利用し、1週間、2週間の貯蔵が日持ちに与える影響を調査します。通常の切り前に併せて、早切りのものも同時に保管して試験します。 切り花の長期低温貯蔵は、生産・流通・販売におけるさまざまな問題の解決につながる技術であると期待しています。これからの本事業の成果にご注目ください。