【MPSニュース】富栄養化の原因と環境問題
富栄養化の原因
富栄養化とは、植物にとっての栄養である窒素やリンなどが土壌・河川・湖沼・海洋に過剰供給されることで、藻類や水草の異常繁殖を引き起こし、環境や生態系に悪影響を及ぼす現象です。主な原因として、工場排水や家庭排水、農業で使用される肥料の流出、さらには排ガスに含まれる窒素酸化物などが挙げられます。日本全国の湖や川では1970〜1980年代頃から急速な富栄養化が問題となり、排水や排ガスの規制が進められました。それにより改善した事例もありますが、農地からの肥料流出や家庭排水は依然として問題となっています。また、水の入れ替わりが少ない湖沼では富栄養化の状態が解消されにくく、例えば霞ヶ浦では水の汚染度を表すCOD(化学的酸素要求量)が1972年からこれまでずっと環境基準値を超える状況が続いています。

富栄養化がもたらす問題
富栄養化は生態系に非常に大きな影響を与えます。土壌では肥料分の蓄積により藻類やコケなど特定の種が優占するようになり、生物多様性が低下します。1995年以降に北米で湿地の富栄養化を発端に、藻類をエサとするカタツムリの増加が起こり、そのカタツムリを中間宿主としてカエルに感染する寄生虫が増え、寄生虫の感染によって足が無くなった奇形のカエルが大量に見つかり問題となりました。
河川は窒素やリンなどの栄養塩類を下流へ送り、湖沼や海洋での藻類の大量発生(アオコや赤潮など)を引き起こします。湖沼でアオコや淡水赤潮が生じるとpHやCODが上昇し、農業用水としての品質が低下します。また、アオコは水の透明度を低下させ、水面を覆うほどに発生することもあり、魚のエラを詰まらせて大量死を引き起こします。大量発生した藻類は死滅して腐敗臭を発生させ、さらに死骸の分解のために酸素が消費され、水中の酸素濃度が低下することで貝類などの底生生物を死滅されることもあります。湖沼に流入した栄養塩類の多くは湖底の泥などに蓄積されますが、アオコの死骸が沈んで分解され湖底付近が貧酸素状態になると、泥から栄養塩類が溶出しやすくなり、富栄養化をさらに進める事になります。
アオコは富栄養化した湖沼やダム貯水池などで、水温が20℃以上になる初夏から初秋にかけて、ミクロキスティスやアナベナなどのラン藻類(シアノバクテリア)が異常増殖することで生じます。赤潮は主に海で発生し、植物プランクトンである珪藻類などの異常増殖によるものです。田植え後の水田が藻に覆われてしまうことがありますが、これはアオミドロなどの緑藻類や、珪藻類による「表層剥離」です。家庭で金魚の水槽が緑色になるのは緑藻類による場合が多いと言われます。
2009年に行われたアンケートでは、全国の農業用貯水施設(143施設)の23%でアオコによる被害があったとされています。近隣の住居で窓が開けられなくなるほどの悪臭や、景観の悪化などがアオコによる被害として報告されていますが、生態系に対しても大きな被害があったと想像されます。
アオコの原因となるラン藻類の中には人間にとって有害な化学物質を作るものがあり、肝臓毒のミクロキスチンや神経毒のアナトキシンなど、さまざまな有毒物質が知られています。世界的にはこれらアオコ毒による人間や家畜の健康被害が問題となっており、1991年にはオーストラリアでアオコが発生した池の水を飲んだ2000頭近くの牛や羊が死ぬという被害が起こっています。さらに1996年にはブラジルの病院で、アオコ毒が混入した水が治療に使われたため、50名以上の患者が死亡するという事故もありました。特に水資源が限られている国では、湖沼でのアオコの発生は人々の生存を脅かす問題となっています。日本では人への健康被害はいまのところ報告されていませんが、アオコ毒は各地で検出されています。湖沼の富栄養化は収まっておらず、気候変動が何かしら影響する可能性もあり、今後も注意が必要です。
湖沼の環境回復の取り組み
一度富栄養化した湖沼の環境を回復することは非常に困難です。栄養塩類は湖底に蓄積しやすく、外部からの流入がなくなっても、底泥からの溶出によって藻類の異常繁殖が継続する場合があります。湖水の浄化や湖底の泥除去には莫大な費用と時間がかかる一方、自然の回復力だけでは十分に改善しない例も少なくありません。そもそも外部からの栄養塩類の流入を減らすこと自体が難題なのです。
琵琶湖では1970年代に深刻な富栄養化が起こり淡水赤潮が発生し、水質低下が問題化しました。その後滋賀県では、工場や事業所からの排水に全国よりも厳しい基準を設けるなど、富栄養化防止のための独自の規制や取り組みが行われてきました。当初、リンを含んだ合成洗剤が富栄養化の原因であるとされ、家庭では合成洗剤の代わりに石鹸を使用すべきとの住民運動が起こり、有リン合成洗剤の不使用が条例にも盛り込まれました。しかし実際は家庭から排出されるリンの中で合成洗剤が占める割合は小さく、本当の問題は当時他県より大きく遅れていた下水道の普及でした。事実、下水道普及率が全国平均を超えた2000年頃から生活系のリンの流入量は目に見えて減少しています。琵琶湖のように流域に広い生活圏を抱える湖沼での富栄養化対策には住民の協力が不可欠ですが、住民に正しい理解と行動を促すことの難しさを示しています。
琵琶湖での淡水赤潮の発生は減少したものの、代わりにアオコの発生が問題となり、現在まで継続しています。窒素とリンの流入量は減少していますが、その多くは排水基準の厳格化による産業系と下水道の普及による生活系の減少です。農業では化学肥料を削減した稲作や、水田からの排水を循環させる設備などの対策を講じてはいるものの、肥料分の流出低減効果は限定的なようです。改めて農地と河川や湖沼は水で繋がっていることを思い知らされます。

花き栽培での富栄養化対策
花きの栽培施設や露地圃場は通常、直接水路に接していないことが多いものの、養液の排水や雨水の流出により残存した肥料が河川に流れ込みます。これを減少させるには土壌診断を活用した精密な施肥設計とともに、流出した肥料分を吸収させるために、農地と河川との間に植物が生育している緩衝帯を設ける対策が効果的です。

