【MPSニュース】先月オランダで生じた花き産業への批判について

切り花の残留農薬への監視

ヨーロッパやアメリカでは毎年、バレンタインデーや母の日、クリスマスなど花を贈るイベントが近づくと、消費者団体や環境保護団体が切り花の残留農薬検査結果を公表しています。ほとんどが「毒のブーケ」「花を贈る事に反対」など、花き業界を批判する内容です。これらのレポートは多くの場合、観賞用の花には残留農薬の基準値がなく、危険な農薬が消費者の知らないまま使用されている、という非難から始まっています。

花には残留農薬基準がなく、農薬の使用が過剰になりがちな状況であることは否定できません。消費者は病害虫による被害がないきれいな花を求める一方、農薬に対しては良いイメージを持っていません。すなわち花の生産では、必要最低限の農薬を安全に使用することがとても大事になります。海外で起こっているような批判は煩わしいものですが、正当な内容には耳を傾け、自らの改善に役立てるべきと考えます。

先月MPSオランダ本部より今年もバレンタインデーの直前に、反農薬ネットワークオランダ支部(Pesticide Action Network – the Netherlands, PAN-NL)という団体から切り花の残留農薬調査の結果が公表されたと聞きました。その内容を確認したところ、意図的に消費者に誤解を促しているとしか考えられない主張がありましたので、間違った情報が日本国内で広まらないよう、ここで解説したいと思います。

PAN-NLレポートの内容と問題点

PAN-NLは今年の1月、オランダ国内の様々な小売店からミックスブーケを8束、バラ5束とチューリップ4束を購入し、それぞれ粉々にして残留農薬を分析しました。ミックスブーケとバラからは1束あたり7~35種類、全体を通じて79種類の農薬が検出され、チューリップからは1束あたり2~6種類、全体を通じて11種類の農薬が検出されたとのことです。ここで、バラおよびミックスブーケから検出された79種類の農薬のうち、22種類がEUでは使用されていない農薬(PAN-NLはこれらを「EUで禁止されている農薬」と呼んでいます)であったことと、15種類が「PFAS」という化学物質グループに分類される農薬であったことを、PAN-NLは問題視しています。

PAN-NLの主張としては、EUで使用されていない農薬はアフリカ産の花から検出されたものであり、これらの花き輸出国では「EUで禁止されている危険な農薬」がいまだに使用されており、現地の生産者の健康が著しく害されている、ということです。そしてMPSに対して、「EUで禁止されている農薬」を他の国の生産者も使用禁止とするよう求めています。しかしながらこの主張は、あまりに自己中心的と言わざるを得ません。

まず、「EUで使用されていない農薬は危険である」という主張が正しくありません。確かにEUは世界で最も農薬に対して慎重ですが、ある農薬を製造・販売するメーカーがEUに無い場合や、その農薬の効果がある病害虫がEUでは問題になっていない場合など、そもそもEUの農家にとって使う機会のない農薬はたくさんあります。それらの農薬は危険だからEUで使われていないわけではありません。

MPS認証では、EUで食品中の残留基準値が設定されていない農薬を「MPS禁止農薬」に指定しています。EUでは使用されていないが、MPS禁止農薬ではない農薬は、他の国で野菜や果物の生産に使用されることをEUが容認しているということです。食用作物での使用が認められているものを、花きで禁止する訳にはゆきません。

国際認証による合理的な規制とは

PAN-NLはアフリカや中南米などの花き輸出における生産者を「使用説明書を読めず、防護服を購入する余裕もない」と表現しています。しかし、少なくとも今回分析された花を生産したアフリカの農場では、そのようなことはないと考えます。現在、オランダ花き市場を通じて輸入されるアフリカ産の切り花には、環境認証・GAP認証・社会的責任の認証が要求されています。つまり、輸出元のアフリカの農場もGAP認証を取得しており、GAP認証で定められた農場労働者への教育や、農薬取り扱い時の防護措置、その他の農薬リスク管理の実践が証明されているということです。

PAN-NLがこのように、「EUで禁止されている農薬」がアフリカで使用されている状況を強く批判する理由は他にあります。EUには世界的に有名な農薬会社がいくつか存在しており、それらの農薬会社はEUで販売を終了した農薬を世界中に輸出しています。一部はオランダの港から船便でアフリカに向けて送り出されており、PAN-NLは以前からこの輸出行為を止めさせようと農薬会社への非難を続けています。今回はMPS認証のルールを利用して、それらの農薬の外国での使用を規制させようと目論んでいるのでしょう。

確かに、人間に対する毒性が明らかに高い農薬を、適切な管理が行われない可能性のある途上国に輸出することは人道的に問題のある行為です。しかし、人間にも環境にも安全に使用できる農薬であれば、現地において生産者の安全使用へのサポートを手厚く行う方が、その国の農業に発展にもつながり、より建設的です。実際、EUの農薬会社はアフリカ等でそのような活動を行っています。もしEUからの農薬輸出を禁止にしても、中国やインドから輸出される農薬に替わるだけでしょう。しかもおそらく安全使用へのサポートは減少し、かえって生産者を危険な状況に追い込むことになりかねません。

国際認証であるMPSは、公正な花きの国際取引を支えるものです。認証の要求事項は消費者が満足できる内容であるとともに、さまざまな国際基準や規制に準拠したものです。何よりも世界の花き業界の持続的な発展を目指すものであり、自分たちの理想を各国に押し付け、強制するものではありません。

新たな論点になりそうな「PFAS」

今回のレポートには「PFAS農薬」という表現が登場していました。PFAS(有機フッ素化合物)はフッ素を含む化学物質を広く表す言葉です。PFASの中には分解が極めて遅いものがあり、環境中に蓄積する恐れが指摘されています。すでにPFOS、PFOAなどの特定の物質に対して、国際的に製造や使用が禁止されています。他のPFASは人間や環境への毒性についてまだ不明なものが多く、規制のあり方について世界中で議論が行われている最中です。

PAN-NLはフッ素を含む農薬を「PFAS農薬」と呼び、人間と自然環境に対する有害性が確認済みであるかのように説明していますが、全てのフッ素化合物に共通するような危険性は今のところ報告はありません。「PFAS農薬」の分解物であるトリフルオロ酢酸(TFA)についても「もっとも残留性が高く、永久に環境に残り続ける」と警告していますが、TFAは環境への蓄積性も生物濃縮性も低いことが分かっています。正しい研究の進展の前に「PFAS農薬」という表現で有害な印象作りが進められている感じがしますが、分解しにくい化学物質が大量に使用されることは確かに不安であり、これから注目してゆきます。

ご注意:この記事の内容はMPSニュース編集担当である彦田の意見であり、MPSジャパン株式会社およびオランダ国MPS財団の公式な見解ではありません。MPS財団はPAN-NLへの対応を検討中であり、今後の状況は追ってMPSニュースでご紹介いたします。