【MPSニュース】植物の抵抗力・抵抗性について
MPSジャパン株式会社 彦田
今回はいろいろな農業資材の宣伝文句で目にするけれども、何となく良く分からない「植物の抵抗性」についてご説明します。
抵抗性の分類
植物の抵抗性とは、植物自身が病害虫の被害を軽減する能力(抵抗力)を持っていることを意味しています。植物の抵抗力には物理的に病害虫の付着や侵入を防ぐものや、病害虫に作用する化学物質など、さまざまなタイプがあります。また、特定の病害から幅広い病害虫まで、抵抗力の対象もさまざまです。もちろん、発揮される抵抗力の強さも状況により変わりますので、「植物の抵抗性を高める」のようなざっくりした表現は、疑う必要はないものの万能と思ってはいけません。
植物にあらかじめ備わっており、病原菌の侵入や感染あるいは害虫による被害を防ぐ性質を「静的抵抗性」と呼びます。一方、植物が病原菌の侵入や害虫の加害を検知し、それに対抗するための抵抗力が新たに発現される性質は「動的抵抗性」と呼ばれます。家や店舗の防犯対策に例えると、静的抵抗性は泥棒の侵入を防ぐための壁の設置や施錠にあたり、動的抵抗性は侵入に気付き対処するための監視カメラや現場に駆けつける警備員にあたります。

物理的な抵抗性の仕組み
植物の葉の表面には硬い表皮細胞があり、さらに外側はクチクラ層やワックス層などに覆われています。糸状菌(カビ)である病原菌の多くは表皮を貫通して侵入し、ハダニやスリップスなどの害虫は表皮を貫いて植物組織を吸汁します。表皮組織が厚く頑丈であれば、これらの病害虫に対する抵抗力となります。また、植物表面の細かい毛などの形状が水滴や害虫の付着を防ぐことで、病害虫の侵入・加害・産卵などへの抵抗力となることもあります。病害虫の加害を受ける前から植物に備わっているこれらの性質(静的抵抗性)は圃場における栽培条件の影響を受けるため、「圃場抵抗性」とも呼ばれます。
表皮の形状や頑丈さは作物や品種の特性により異なり、栽培環境や栄養状態によっても変化します。一般に窒素過多の場合、植物の組織は軟弱になり、病害虫の被害を受けやすくなります(窒素過多の抵抗性への影響は、植物体内のアミノ酸が増加して病害虫にとって好適な栄養条件になることや、動的抵抗性のスイッチが鈍くなることなどもあります)。ケイ酸やカルシウムの施用により表皮細胞が硬くなり、植物の抵抗性が高まることが期待されます(カルシウムには窒素吸収を抑制する効果や、動的抵抗性のスイッチを敏感にする効果も期待されます)。
植物が病原菌の侵入を察知して発現する動的抵抗性の中には、侵入を受けた部分の細胞壁を硬く・厚くする防御反応があります。また、病原菌に侵入された細胞を自ら死亡させたり、害虫に加害された葉を切り離したりして周囲への被害拡大を防ぐこともあります。一般的に病害に対する動的抵抗性は、化学的な防御機構を含め、植物の抵抗性遺伝子と病原菌の病原性遺伝子の関係によって左右されます。「○○病抵抗性品種」と呼ばれるものは多くの場合、このような動的抵抗性に関連した遺伝子を持っていることを示しています。
化学的な抵抗性の仕組み
植物の体内にはさまざまな抗菌効果や防虫効果のある化学物質が存在しています。これらの種類や蓄積量は作物や品種、栽培条件により変化し、病害虫に対する静的抵抗性の一部として働くと考えられています。良く知られる抗菌・防虫物質としては緑茶などに含まれるカテキン・タンニン、唐辛子などに含まれるカプサイシン、ワサビなどに含まれるイソチオシアネート、大豆などに含まれるサポニン、等々です。
病原菌の侵入に対して生じる動的抵抗性の反応でも、化学的な防御機構が知られています。病害抵抗性品種では病原菌の侵入後速やかにキチナーゼなど病原菌を分解する酵素を含むPRタンパク質(病原性関連タンパク質)や、ファイトアレキシンと呼ばれる抗菌性物質が増加します。一方、病原菌の側にはこれらの抵抗性反応を抑制する能力を持つものがおり、複雑な抵抗性/病原性の関係が築かれています。
害虫の被害に対する動的抵抗性の反応も知られています。ヨトウムシによる葉の加害に対して昆虫に毒性のある物質や、昆虫の摂食を阻害する物質が生産される例や、ハモグリバエの産卵に対して殺卵効果のある物質が生産される例などがあります。また、害虫の加害を受けた植物が、その害虫の天敵(寄生バチなど)を呼び寄せる香りを放つ、間接的な害虫防御反応もあります。
抵抗性が高まる仕組み
軟弱に生長した植物では病害虫に対する抵抗力が低下します。すなわち、適切な栽培環境や施肥管理は植物が抵抗性を発揮させるためにも重要です。また、ケイ酸やカルシウムなど静的抵抗性を高める資材もあります。
植物が動的抵抗性を発動すると、病害虫の加害を受けていない部位にも情報が伝わり、一時的にその植物全体で抵抗性の反応が活性化することが知られています。これは病害虫の加害に対して植物が事前に備えるもので、病害に対する全身獲得抵抗性(SAR)と呼ばれる現象が古くから研究されています。SARが発現している植物では、病原菌の侵入に対して動的抵抗性の反応が通常よりも素早くなり、抵抗力も強化されます。人為的にSAR類似の反応を起こす物質は既に実用化されており、殺菌剤として主に水稲のいもち病防除に使用されています。
病害に対するSARの発現には植物体内のサリチル酸(SA)という物質が関与しています。同様に、虫害に対する抵抗性にはジャスモン酸(JA)が、乾燥・冷害・塩害などの環境ストレスに対する抵抗性にはアブシジン酸(ABA)が関与し、これらの化学物質は抵抗性に関する植物ホルモンと考えられています。
ここで、下の図のように、SA・JA・ABAは互いの働きを抑制し合う関係性にあると指摘されています。つまり、SAは病原菌に対する抵抗性を高めると同時に、JAによる害虫に対する抵抗性とABAによる環境ストレスに対する抵抗性を抑えるよう働く、というものです。

植物にとって抵抗性を発現し外敵に備えるにはエネルギーが必要ですが、生長や繁殖のためのエネルギーも確保しなければなりません。周囲の状況に合わせて最適な防御戦略を選択するために、このような制御機構が発達したと考えられています。実際、SAR類似の反応を生じる殺菌剤では、使用量やタイミングによっては生育抑制や収量減などの顕著な薬害を生じる場合があり、微妙なコントロールが必要になります。その一方で、SAによる病害抵抗性の反応とJAによる害虫抵抗性の反応を同時に発現する物質も見つかっています。植物による抵抗性の制御機構は非常に複雑で、まだまだ不明な部分が多いのが現実です。
最近、JAの類似物質であるプロヒドロジャスモン(ジャスモメート液剤)がトマトのアザミウマに対する登録を取得しました。トマトに散布することで植物の害虫抵抗性が活性化され、アザミウマが忌避する物質が生産されるものと考えられています。ただし、プロヒドロジャスモンは果樹では果実の着色や肥大の調節など様々な働きをすることが知られていますので、植物の種類や使い方が変われば、また違った反応が起こる可能性があります。
天然由来の成分を利用したバイオスティミュラント資材の中には、植物ホルモン的な作用を通じてSA・JA・ABAによって誘導される抵抗性に働きかけるものもあると想像されます。また、植物自身に備わっている抵抗性を直接活用する殺菌剤や殺虫剤は、環境負荷の少ない農薬として期待され研究が進められています。ただし、植物の生長や動的抵抗性の発現は、その植物独自の複雑なホルモンバランスによって制御されていると考えられますので、「これを散布すれば抵抗性が高まる」のように単純には語れないことを理解しておかなければなりません。

