【MPSニュース】日本の花き業界とMPSジャパンの20年を振り返る

MPSジャパン株式会社は8月1日に設立20周年を迎えました。そこで、日本におけるMPS流通認証取得の第一号である株式会社大田花きの磯村氏と、MPSジャパン松島氏との座談会を実施し、設立当初の状況と今後の花き業界、さらにMPSジャパンへの期待などについてお話を伺いました。

(この記事はオンラインの座談会形式で行われたインタビューを編集担当が取りまとめたものです)

危機感の中で踏み出した一歩

磯村:2006年というのは、まさに花きの生産量や売上がピークから減少していく局面でした。花の市場規模は1998年がピークで、バブル経済崩壊後はホームユース(当時はカジュアルフラワー)需要などで一時的には堅調だったものの、21世紀に入ってからは下降傾向に転じていたんです。業界全体に「このままではいけない」という共通の危機感がありましたね。

松島:私は2000年に花業界に入ったので、当時はまだ皆さんから学ぶような状況でしたが、欧州、特にオランダの環境対応への関心の高さには目を見張るものがありました。日本の生産者の方々も欧州視察を通じて、「日本でも取り組みが必要だ」という問題意識を強く持たれていました。
私がまだキリンビールに籍を置いていた頃、日本フローラルマーケティング協会(JFMA)の中にプロジェクトチームを設け、岐阜大学の福井教授を座長に迎えて日本に導入すべきかを検討し始めました。「日本にはまだ早すぎる」という見方もありましたが、関心を持つ生産者のためにも枠組みを整えるべきだと考え、大田花きさんをはじめとする皆さんに投資をいただいてスタートしました。最初は「みんながどんどん入ってくる」という期待ではなく、「欧米に遅れないために、まずは始めよう」という意識が強かったですね。

磯村:当時、国際的にはFAO(国連食糧農業機関)やWTO(世界貿易機関)がコーデックス基準を設けて野菜の規格を明確にしました。EUでは食べるものに関しては「GLOBAL G.A.P.」を基準にしないと卸売市場として問題になるという動きがありました。花きに関しても、オランダのウエストランド市場などが中心となってMPSを推進しており、「将来は国際的な基準への対応が必要になる」という認識は我々の中にもありました。
ただ、機械セリを導入した市場は海外視察を通じてそちらの動向に高い関心を持ち、「自らも対応すべきだ」という意識があった一方で、実際に対応に取り組む市場がどの程度になるかは不透明でした。川上の生産者から小売までサプライチェーン全体が認証基準に合致する必要があるため、まだMPSに参加する生産者が多くない中で「自分たちだけ取り組んでもよいのか」という懸念や足踏みもありましたね。

流通認証の導入効果と継続する意義

磯村:私ども大田花きは株式公開していますので、内部監査室もありますし公認会計士のチェックも入ります。しかし、どうしても監査の重点は会計や取引金額に関わる領域になりがちでした。一方で、MPSによる業務全般の確認は、組織全体の引き締めと良い方向への変化に繋がりました。
具体的にご指摘をいただいた例を挙げると、女性用ロッカーはきれいに整っているのに男性用ロッカーの環境があまり良くなかった点や、荷扱い時に箱の音を立てないような優しい取り扱いなどです。ついつい忙しさから慣行化し、見落とされていた作業・職場環境を第三者の目で見て指摘してもらえるのは本当にありがたいことでした。これは弊社の「品質改善室」への課題(宿題)として共有され、彼らが自ら襟を正して改善に取り組む大きな契機になりました。

松島:大田花きさんを皮切りに、大手を含む10市場が流通認証に参加してくださったことは素晴らしい取り組みでした。初期の象徴的な事例として、5つの市場を統合する際、統合前からMPSに参加し、それぞれ異なる運営・作業形態をMPSの基準に沿って1つのマニュアルへ整理されたケースもありました。そこでは認証取得後も毎月委員会を開き、基準の遵守状況を確認するなど、MPSの仕組みを組織の運用にうまく活用していただきました。
しかしその後、業績悪化などの理由で、複数の市場がMPS認証から離脱されてしまう厳しい状況となってしまい、非常に残念に思っています。来年の花博では植物の調達基準に生産場面でGLOBAL G.A.P.やMPS-ABCが採用されている一方、調達窓口となる流通での連携が不十分になっていしまった点は課題だと感じています。

磯村:でも松島さん、大手の小売にはMPSに賛同して大変期待をしているところもありますので、離脱した市場もまた戻ってきますよ。それに、仲卸や小売でも意識の高い人たちはMPSのことをよく理解していますので、サプライチェーンにおけるMPSの割合をもっと強化すべきだ、という声もありました。
大田花きとして、今もMPS認証への参加を継続しているのは、日頃の「花の取り扱い」「花への接し方」「作業環境」までを確認する意義がすごく大きいと思っているからです。現場の第一線が、鮮度保持や花持ち、ケア方法を含む「業界人として行わなければならない規範」を学び、自らの業務を正す機会になるため、非常に高く評価しています。

花き業界の反転攻勢と市場の役割

磯村:現在は少子高齢化と人口減少が進む中で、流通の集約化・シャッフルが進んでいる状態です。既存の形態のままでいれば、小売も仲卸も市場も生産者も、赤字となってしまうところが増えるでしょう。課題は「地域ごとの卸売市場をどのような形で作ってゆくか」であり、ここを2030年までに整理できれば、そこからの反転攻勢が可能だと考えています。すでに今度の花博を一つの契機として、地域でもってまとまろうとする動きが見え始めています。2030年までには、各地域で少子高齢化に対応した市場のありように目鼻がついていることを期待しています。

松島:MPSジャパンでは15年以上にわたり消費動向調査を毎年実施してきましたが、消費減少を毎年見続けてきました。しかし目を海外に向けると、米国や欧州ではこの期間にも花の消費が伸びているんですね。日本の花き需要が減少し続けている点については、我々ももっと工夫が必要だと感じています。
現在、磯村会長が参画されている花の国日本協議会のプロジェクトでは、環境配慮とウェルビーイングを前面に出した商品企画など、花の効用と作られ方を価値として打ち出すことに取り組まれています。
日本では欧州と違い生産者や小売の規模が小さいため、市場が中心となって業界を動かす産業構造になっており、これは今後も大きくは変わらないと思います。大田花きさんがこれまで、新しい作物の商品化や新しい産地の育成をされてきたように、市場主導の取り組みを行われる中で、このMPS流通認証のシステムが必ず生きていくと考えますし、我々としても役立っていきたいと考えています。

次の時代へ:今後のMPSジャパンへの期待

磯村:MPSを活用した生産・流通のサプライチェーンが本流を占めるのだということを、消費者にも認知してもらえる形にしたいですね。有機栽培にしても、MPSやGLOBAL G.A.P.にしても、まだ消費者への訴求が十分ではありません。産地側でも切花などは共選共販のところが多いため、個々の生産者にまで認証の意義が届きにくいという課題もあります。
だからこそ、このMPSサプライチェーンが「絶対的に花持ちが良い」「身体に害がない」ものであることを印象づけながら広めていきたいです。日本の消費者もようやくGAPが分かるようになってきましたが、同じように認知度をアップさせていきたいですね。

松島:おっしゃる通り消費者の理解が進まなければ、生産者の方々も張り合いがなく、意欲を維持しにくいです。これまでは生産者に「MPSは難しいもの、堅苦しいもの」と捉えられてきた可能性もあり、私たちの努力も足りなかったと反省しています。
そこで20周年を機に、私たちはMPSを分かりやすく伝える「リブランド」に本格的に取り組むことにいたしました。生産者、流通、そして何より消費者の皆様に向けて、パンフレットなどの資料を分かりやすく一新し、ホームページもすでに改新を初めております。

磯村:松島さんが立ち上がってくれたからこそ、今の我々の場所があります。MPSジャパンやJFMAは、我々花業界が他の業界の進歩に取り残されず、時代とともに今を生きていくために欠かせない仕事をしています。業界内部にただこもるだけでなく、時代を捉え、消費者の意識まで含めて花業界が生きていくために欠かせないご提言をいただいており、今後とも本当に期待しています。

松島:過分なお言葉をいただき、涙が出てきます。ご期待に応えられるよう、これからも21周年、22周年と頑張っていきたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。

(インタビュー実施日:2026年9月4日、文責:彦田岳士)