アナログな情報管理の限界、それでもデジタル化が進まない理由
現在、花きの出荷は多くの手作業と紙の伝票による情報管理で成り立っています。生産者と市場、さらに仲卸・小売店の間での出荷数量・規格・価格などの情報のやり取りは、主に電話やFAX、手書きの伝票によって行われます。このようなアナログな情報管理には、情報伝達に時間がかかる、記入間違いや紛失などのミス、同じ情報をそれぞれの会社で入力しなければならない非効率、といった問題があります。業界全体が人手不足になりつつある今、限られた人数で多くの業務を行うために、情報管理の効率化は避けられない状況にあります。出荷情報をPCに入力してインターネットを通じてやり取りする「デジタル化」は、共選場や大手の市場などで始まっていますが、まだまだ課題があることも事実です。PCに慣れておりシステムを操作できる人が少ないこともありますが、JAや卸売市場がそれぞれ独自にシステム開発を行ってきた結果、異なるシステム間でデータのやり取りができないという問題があります。そのため複数の取引先との間では、いくつもの異なる形式でデータの送受信を行う必要があり、結局、FAXで届いた情報を手で打ち込んだ方が楽という「デジタル化への過渡期の壁」が生じている状況です。
「フローラAPI」によるデータ連携の実現
デジタル化した出荷システムでは出荷データの形式に決まりがあり、例えて言うと、どこに情報を書き込むか決まっている用紙に必要事項を記入して送受信を行うようなものです。システムによって用紙の形式が異なるため、異なるシステム間でのデータのやり取りができません。このような問題の解決として、インターネット上でデータ連携を行う「API」と呼ばれるサービスがあります。これも例えて言うと、出荷データを品目や数量などの要素に切り分け、それらを個別にカードに記入し、共通の番号を付けて紐でまとめておくようなものです。そしてデータを受け取る側のシステムの形式に合わせて、カードの内容を用紙に記入して送ることで、異なるシステム間でのデータのやり取りを可能にします。フラワー需給マッチング協議会では花きの出荷情報のやり取りのためのサービス「フローラAPI」を開発し、現在、実証事業を行っています。
APIの活用が花き業界の業務を効率化する
出荷者と市場、さらに物流会社など、商品の流通に携わるさまざまな会社で使用しているシステムを統一することは事実上不可能です。影響力の大きな会社が取引先に自社システムの利用を強制するやり方では、業界内に大きな問題を引き起こします。新しいシステムの導入や更新には多額の費用と労力がかかるため、システムの強者が弱者にそれらの負担を押し付けることになるからです。APIの活用はそれぞれの会社で使用しているシステムはそのままに、APIとの間でデータをやり取りする機能を追加するだけなので、システム更新のために必要なコストは最小限で済みます。会社やシステムごとに一度、APIへの接続環境を整備するだけで、業界全体の異なるシステムとつながることができます。さらに、異なるAPIサービス間でデータをやり取りすることも可能なため、将来、業界内でどのような出荷システムが利用されるようになっても、「フローラAPI」を利用していれば問題なく対応することができます。APIによるデータ連携はデジタル化によって伝票作成の手間を減らすだけでなく、市場や物流会社の業務効率化にも役立ちます。APIでは出荷情報に個別の明細識別番号をつけて管理するため、市場での荷受けの際に他の出荷情報と取り違えることがなくなります。また、明細識別番号や品目、規格などの出荷情報の詳細をQRコードにして荷物に添付することで、市場での入荷登録や、物流会社による検品・積込み・配送ルート管理などの作業が、現場でQRコードをスキャンするだけで行えるようなシステムを構築することもできます。「フローラAPI」は2025年内は実証事業期間中であり、無料で利用できます。その後はシステムの保守・改修のために、業界関係者にとって公平な料金体系を協議し決定する予定です。
APIを利用するための生産者向け出荷システム
フローラAPIによるデータ連携を行うには、生産者が出荷用ソフトを利用して出荷データのデジタル化を行う必要があります。生産者向け販売管理ソフト「花くらうど」は、フローラAPIとの連携が円滑に行える仕様になっており、現在、主に全国の鉢物生産者が利用しています。もちろん、切り花や苗物など他の花き類の出荷にも対応しています現状で利用可能な機能として、生産者が入力した出荷データを市場が要求する形式に応じて、メールやFAXなど受け取り可能な手段で自動的に送信することができます。また、市場から送られた仕切書のデータを受け取ることもできます。さらに、入力したデータをWEBカタログの商品情報として活用することもできます。
「花くらうど」に関するお問い合わせ
本年の実証実験を経て、今後フローラAPIによるデータ連携が可能な卸売市場が増えてゆけば、生産者と市場の間で特別な作業をする必要なく出荷データを共有することが可能になります。
生産者向け販売管理用ソフト「花くらうど」の利用には全国花くらうど協会への参加が必要で、年会費+ソフト使用料として年額52,000円かかります。入会申し込みや問い合わせは、全国花くらうど協会事務局(大澤・森田、メール:
k-osawa@fa2.so-net.ne.jp)までご連絡ください。