【MPSニュース】花き園芸における花粉媒介者の役割と保護活動

昨年末、殺虫剤「アドマイヤー」の登録内容変更に関する事前周知文書がメーカーから公表されました。現在、アドマイヤーは農薬としての安全性の再評価が行われており、もうすぐ終了する見込みのため、今年中に追加される使用規制について前もって通知しているものです。主な規制内容は、この農薬はミツバチに影響があるため、ミツバチが訪花する可能性がある場所や時期での使用は禁止される、ということです。アドマイヤーは花き類にも登録もありますが、開花前に収穫する作物、完全に密閉された施設内、開花期終了後(大部分の花弁が落下または乾燥するか、花が閉じてから)の使用に限定されます。ただし、アドマイヤーはMPS禁止農薬に指定されていますので、MPS-ABC参加者はそもそも使用してはいけません。

アドマイヤーをはじめとするネオニコチノイド系殺虫剤は以前からミツバチなどの花粉媒介者に対する悪影響が指摘されており、世界中で使用禁止になる国が増えています。(モスピランやベストガードなどネオニコチノイド系殺虫剤の中にもミツバチへの安全性が確認されているものもあります。)MPS-ABC認証ではアドマイヤーの他に、アクタラ、ダントツ、バリアード、というネオニコチノイド系殺虫剤がMPS禁止農薬に指定されています。これらの農薬もいずれ再評価のタイミングでミツバチ保護のための規制が追加されると予想されます。そこで、このような動きの背景にある花粉媒介者に関して、その役割と重要性、花き生産やガーデニングを通じてこれらを保護する取り組みについて紹介します。

花粉媒介者の役割と重要性

ミツバチは蜜や花粉を集めるために花を訪れ、次々と移動することで体に付着した花粉を別の花に運びます。自ら移動することができない植物にはミツバチなどの生物の働きによって受粉し子孫を残すものが多くあり、そのような植物にとって花粉媒介者は必要不可欠な存在です。

おもな花粉媒介者はハチ、アブ、ハエ、チョウなどの昆虫ですが、鳥やコウモリ、ヤマネなどの小動物が花粉媒介を行うこともあります。世界全体では20,000種以上の生物が、地域や植物の種類ごとに花粉媒介者として働いています。人間が蜜を集めるためや、農作物を受粉させるために、花粉媒介者を飼育または管理することもありますが、ミツバチやマルハナバチなど特定の生物に限定されており、生態系や生物多様性のほとんどは野生の花粉媒介者によって支えられています。

花粉媒介者の働きがもたらす経済的価値は、世界全体で年間数兆円規模にのぼると推計されています。世界の主要な作物の約75%が、何らかの形で花粉媒介者に依存していると言われ、もし花粉媒介者がいなくなると果樹や果菜類を中心に農業は壊滅的なダメージを受けると想定されています。花き栽培では受粉が必要になることは少ないのですが、栽培に使う種子の生産には花粉媒介者の働きが必要であり、また、新しい作物や品種の開発・改良には遺伝子資源として多様な野生植物が必要です。野生植物の90%が受粉を花粉媒介者に依存しており、花粉媒介者の減少は生態系の破壊につながると同時に、花き産業の将来にも深刻な影響をもたらします。

花粉媒介者の減少

現在、世界的に花粉媒介者の減少が懸念されています。野生の花粉媒介者では種の絶滅、飼育されたミツバチでは一部の地域で大量死などの問題が生じています。野生の花粉媒介者の個体数に関しては情報不足ですが、局地的には減少しているとの報告があり、今後のモニタリングが望まれています。

花粉媒介者の減少に関連する要因としては、土地利用の変化、農業の集約化、農薬の使用、環境汚染、侵略的外来種、病原体、気候変動などが挙げられています。

土地利用の変化とは開発による生息地の減少のことで、宅地や農地によって自然が分断され移動が制限されることも影響します。農業の集約化とは面積あたりの収穫を増やすためのさまざまな技術、施設栽培への移行や緩衝地帯となる非農耕地部分を減らした大規模区画への整理、遊休期間を設けない連作などを指し、花粉媒介者の餌となる植物の減少や移動の制限、農薬に暴露される機会の上昇などの影響があります。農薬を使用する農地が増加すると、そこで栽培している作物のみならず、農地内の雑草や周辺で自生している植物でも農薬の残留が増え、それらの植物を餌としている花粉媒介者に悪影響を与えます。

花粉媒介者の多くはそれぞれ特定の植物を餌としており、結果的にそれらの受粉を助けています。侵略的外来種の拡大や開発に伴う人工的な植栽で植物の種類が変化すると、花粉媒介者の生存に大きな影響があります。気候変動による温暖化や干ばつなどの災害も在来植物の種類に影響を与えるため、間接的にも直接的にも花粉媒介者の生存に影響します。

ミツバチやマルハナバチのように巣を作り集団で生活する花粉媒介者では、寄生ダニやウイルスといった病原体のまん延も個体数減少の大きな要因です。寄生ダニの一種であるミツバチヘギイタダニは北米を中心としたミツバチの主要な死亡原因として知られており、養蜂業者では数百万箱以上のコロニーがこのダニが原因で絶滅したと言われています。

花き生産やガーデニングを通じた花粉媒介者の保護活動

世界的な花粉媒介者減少の懸念に対し、保護団体からは政策レベルでの対応が要望されています。農薬を使用しない有機農業の推進やIPM(総合的病害虫管理)による化学農薬の削減とともに、非農耕地の計画的設置や自然生息地の回復、都市型農業など、人間の活動と自然との調和を図る方法の探索が重要視されています。

そのような中、個人の趣味や自治体で行われるガーデニング活動を利用して、花粉媒介者の生息環境を整備してゆこうとする取り組みが欧米を中心に広まっています。

イギリスの王立園芸協会(RHS)は「花粉媒介者のための植物リスト」を公表しています。これは科学的根拠に基づいた、ハチ、チョウ、アブなどの訪花昆虫に有益な植物のリストで、ガーデニングでの利用を呼びかけています。同時に「有機栽培の苗生産者」も公表し、ミツバチ等に影響のある農薬を使用していない生産者を紹介しています。地域レベルでミツバチの生息に適した庭や公園、緑地帯を地図に表し、都市部と田園地帯を結ぶ回廊を作ろうという「Bee Roadzz(ミツバチの道)」のようなプロジェクトも始まっています。

ドイツではベルリンやハンブルクなどの都市部で、道路脇や公共施設の屋上に花やハーブを植え、多様な花粉媒介者の生息環境を整えるとともに都市養蜂にも利用する取り組みが行われています。

フランスでも同様に都市や郊外で花粉媒介者の生息環境を回復する動きが広まるとともに、「ラベ法」と呼ばれる法律により2017年に公共の緑地での農薬使用が原則禁止され、2019年には趣味のガーデニングや家庭菜園でも、2022年からは民間の植栽管理業者による農薬使用も禁止されています。ミツバチに対する農薬の影響を軽減することは、この法律の目的の一つになっています。

アメリカではミツバチの保護の他に、花粉媒介者としてはそれほど重要ではないものの知名度が高くビジュアルが良い「オオカバマダラ」の保護活動が、官民挙げて盛んに行われています。オオカバマダラはカナダとメキシコの間を数世代かけて行き来する「渡り」を行うチョウで、幼虫の餌となる植物の減少や気候変動の影響により、個体数はかつての10%以下にまで減少したと言われています。このチョウを守るため全米野生生物連盟(NWF)が提唱する「Mayors’ Monarch Pledge(市長によるオオカバマダラ誓約)」には600以上の地方自治体が参加し、各地で幼虫の繁殖場所を回復する取り組みが行われています。また、NWFでは一般家庭や学校や職場でのガーデニングを通じて野生生物を保護する「Certified Wildlife Habitat®(野生生物の生息地認証)」というプログラムを運用しており、民間レベルで生物多様性の保全に取り組めるようサポートを行なっています。

日本の都市でも農業や養蜂など、自然との関わりを強めようとする動きがあります。一方で生理的に虫が嫌いな人も多く、子供用の学習帳の表紙からも昆虫の写真がなくなっている状況です。自宅の庭や公共の場所でハチやアブが飛び回り、チョウやガの幼虫が葉をかじっている光景が、今の日本で受け入れられるかは疑問です。しかし、それらの花粉媒介者がいない環境は自然とは言い難く、人工的なものです。強力な農薬を使って人工的な環境を維持することは、本物の自然に悪影響を与える行為です。これから教育の充実や害虫管理技術の発達によって、趣味のガーデニングに自然への貢献という新しい価値が生まれることが期待されます。家庭園芸用の殺虫スプレーでは花粉媒介者に悪影響のある農薬が堂々と販売されていますので、ナチュラルタイプや天然由来の製品を選ぶところから始めると良いでしょう。

花き生産者の皆様にも、花粉媒介者などの自然を守ることは自分たちにとっても重要であることを認識し、農薬の使い方や圃場周辺の管理について見直して頂きたいと思います。